スマートフォンが突然けたたましく鳴り、「緊急地震速報」と表示される。この通知は、電話番号あてのメールでも、アプリの通知でもなく、その場所の基地局から、近くにいる携帯電話すべてへ一斉に送られる仕組みで届いています。この記事では、気象庁が地震をとらえてから手元の端末が鳴るまでの流れ、届かないことがある条件、警報が出る基準、鳴ったときの行動、そして地震の後にかかってくる不審な電話への備えまでを、気象庁と携帯各社の公開情報をもとに整理します。
緊急地震速報とは:揺れが来る前の「数秒から数十秒」
気象庁の説明では、緊急地震速報は「地震の発生直後に、各地での強い揺れの到達時刻や震度、長周期地震動階級を予想し、可能な限り素早く知らせる情報」です。あくまで地震が起きた後の速報で、地震を予知するものではありません。
速報が間に合う理由は、地震の波の速さの違いにあります。最初に届くP波は秒速約7km、強い揺れをもたらすS波は秒速約4kmで伝わります。震源の近くの地震計でP波をとらえ、S波が遠くへ届く前に知らせる、というのが基本の考え方です。
ただし、発表から強い揺れまでの時間は数秒から長くても数十秒程度と短く、震源に近い場所では速報が間に合いません。内陸の浅い地震では、処理と伝達に数秒かかるため、震源近くへの提供は原理的に間に合わないと気象庁自身が説明しています。また、ごく短いデータから計算するので、予測震度には誤差が含まれます。
地震をとらえる側:観測網と計算のしかた
気象庁は、全国約690か所の気象庁の地震計・震度計に加え、国立研究開発法人防災科学技術研究所の約1,000か所の観測点のデータを使っています。震源に近い少数の観測点のデータから、震源の位置とマグニチュードをできるだけ早く推定し、各地の震度や揺れの到達時刻を予想します。
2018年3月22日からは、PLUM(プラム)法という方法も使われています。震源や規模を推定せず、近くの地震計で観測された揺れから周辺の震度を予想するやり方で、震源域が広い巨大地震でも震度を精度よく予想できるのが特長です(その分、揺れまでの猶予は短くなります)。
観測網は今も広がっています。気象庁の沿革によると、2019年6月27日に海底地震計網のS-net・DONET、2025年10月15日にN-net沖合システム、2026年3月12日にN-net沿岸システムのデータの活用が始まりました。海の下で起きる地震を、陸の観測点より早くとらえるための拡充です。
「警報」と「予報」:スマホが鳴るのは警報
緊急地震速報には「警報」と「予報」の2種類があります。テレビや携帯電話で見聞きするのは主に警報です。
| 緊急地震速報(警報) | 緊急地震速報(予報) | |
|---|---|---|
| 出る条件 | 2点以上の観測点で地震波をとらえ、最大震度5弱以上または最大長周期地震動階級3以上が予想されたとき | マグニチュード3.5以上、または最大震度3以上、もしくは最大長周期地震動階級1以上が予想されたときなど |
| 伝える内容 | 震度5弱以上(または長周期地震動階級3以上)が予想される地域と、震度4が予想される地域の名前(全国約200の地域単位) | 予測震度・揺れの到達予想時刻など |
| 主な受け取り先 | テレビ・ラジオ、携帯電話の一斉配信、防災行政無線 | 家庭用の受信端末、機器の制御など |
警報では、具体的な予測震度や「あと何秒」という猶予時間は発表されません。また、震度6弱以上または長周期地震動階級4が予想される場合は「特別警報」に位置づけられていますが、緊急地震速報では特別警報を通常の警報と区別せずに発表します。スマートフォンの通知が同じ見た目でも、それが特別警報にあたる場合があるということです。
手元のスマホに届くまで:電話番号を使わない「一斉同報」
気象庁が警報を発表すると、携帯電話会社のネットワークを通じて、対象地域の基地局から電波の届く範囲にいる端末へ一斉に配信されます。気象庁のよくある質問では、この一斉同報機能で警報を配信している事業者として、NTTドコモ・au・ソフトバンク・ワイモバイル・楽天モバイルの5社が挙げられています。サービス名はドコモが「エリアメール」、ほかの各社は「緊急速報メール」です。
通常のメールやSMSと何が違うのか
- あて先を指定しない:auは「特定エリアのau電話に一斉にお知らせするサービス」、ソフトバンクは「対象エリアにいるお客さまにブロードキャスト(同報)配信するサービス」と説明しています。一人ひとりの電話番号あてに送るのではなく、その場所にいる端末全体に向けて流します。
- 混雑の影響を受けにくい:ドコモは2007年の発表で「輻輳(ふくそう)の影響を受けずにメッセージを一斉配信することが可能」と説明し、現在のサービスページでも「回線混雑の影響を受けずに受信することができます」としています。
- 預かって後から届けることはしない:ドコモは、SMSとは異なる配信方式のため、通常のメールのようにセンターでメッセージを預かることはできないとしています。圏外などで受け取れなかった分は、後から再受信できません。
- 無料・申込み不要:ドコモは月額使用料・通信料・情報料を含め一切無料、申込みは不要としています。au・ソフトバンクも無料です。
「第1報」と「第2報」に分けて速くする技術
この一斉配信の土台は、携帯電話の国際標準団体3GPPで規格化されたETWS(地震・津波警報システム)です。NTTドコモの技術誌によると、ETWSは既存のエリアメールで使われていたCBS(セル・ブロードキャスト・サービス)をもとに設計され、3GPP Release 8で標準仕様が完成しました。
ETWSでは、情報を2つに分けて送ります。
- 第1報(Primary Notification):「地震」「津波」などパターン化された最低限の情報だけ。受け取った端末は、あらかじめ決められたブザー音を鳴らし、決められた文章を表示します。緊急情報を受けてから約4秒で端末に届けることが、3GPPの要求条件として決められています。
- 第2報(Secondary Notification):震度や震源地など、第1報だけでは伝えきれない補足の情報。
同じ技術誌では、従来のエリアメールは待受中の端末にしか届けられなかったのに対し、ETWSでは通信中の端末も受信できるように拡張したと説明しています。ただし、実際に通話中に受け取れるかは機種や回線によって違い、ソフトバンクは今も「通話中、通信中、電波状態が悪い場合は受信することができません」と案内しています。
電話番号を使わないので、着信履歴のように「どこから届いたか」を番号で確かめる性質のものではありません。逆にいえば、電話番号から届くSMSで「緊急」「地震」をうたい、リンクを押させたり番号にかけさせたりするものは、この仕組みとは別物です。偽のSMSの見分け方は宅配便・郵便の不在通知SMSの見分け方も参考になります。
どう広がってきたか:年表
| 時期 | できごと(気象庁の沿革・各社発表より) |
|---|---|
| 2004年2月25日 | 気象庁が試験提供を開始 |
| 2006年8月1日 | 混乱のおそれが少ない分野(設備制御など)への先行提供を開始 |
| 2007年10月1日 | 一般向けの提供を開始。NHK・民放の放送、Jアラートでの送信も開始 |
| 2007年12月1日 | 気象業務法の改正で、地震動の警報・予報として位置づけ |
| 2007年12月 | NTTドコモがエリアメールで提供開始(発表資料では12月10日午前10時に全国一斉。当初の対応機種は905iシリーズ) |
| 2008年3月 | auが緊急速報メールで提供開始 |
| 2008年4月28日 | 宮古島近海の地震で、一般提供後初めての警報 |
| 2010年8月 | ソフトバンクが提供開始 |
| 2011年3月11日 | 東北地方太平洋沖地震の後、余震が続くなかで警報を適切に発表できない事例が多発 |
| 2013年3月 | イー・モバイル(現ワイモバイル)が提供開始 |
| 2013年8月30日 | 震度6弱以上の予想を特別警報に位置づけ |
| 2016年12月14日 | IPF法の運用開始(同時に起きた複数の地震への対応を改善) |
| 2018年3月22日 | PLUM法の運用開始 |
| 2019年12月 | 楽天モバイルが提供開始 |
| 2023年2月1日 | 発表基準に長周期地震動階級を追加 |
| 2025年10月〜2026年3月 | N-net(沖合・沿岸)の海底地震計データを順に活用開始 |
鳴らない・届かないのはどんなときか
各社の注意事項から、受け取れない主な場合をまとめます。
- 電源を切っているとき(ドコモ・au)、機内モードのとき(ドコモ)
- 圏外、トンネル・地下など電波状態が悪い場所(ドコモ・au)
- 通話中・通信中(ソフトバンクの案内。機種・回線によって異なる)
- 受信の設定をオフにしているとき。ソフトバンクはiPhoneの場合「設定」→「通知」→「緊急速報」でオンにすると案内しています
- 海外にいるとき(ドコモのエリアメールは日本国内のみ)
逆に、ドコモは配信エリアを市町村単位としつつ「電波状況などにより市町村より広い範囲で届く可能性があります」としています。隣の市が対象でも自分の端末が鳴ることはあるということです。また、ソフトバンクは専用の警告音がマナーモードでも鳴る(一部機種を除く)とし、auは警報音を変更できないとしています。ドコモは、専用の設定ができない一部の機種ではマナーモード中に専用ブザー音が鳴らないと案内しているので、自分の機種の動きを一度確かめておくと安心です。
テレビ・ラジオは、緊急地震速報で自動的に電源が入るわけではありません(緊急警報放送に対応した機器は例外)。寝ている間や家の中で気づけるのは、多くの場合スマートフォンです。
なお、気象庁は毎年6月頃と11月頃に全国的な訓練を行っていますが、訓練の速報は携帯電話の一斉配信(緊急速報メール/エリアメール)では流れません。2026年は6月17日に1回目が行われました。訓練日にスマホが鳴らなくても、故障ではありません。
鳴ったら何をするか
気象庁は基本を「周囲の状況に応じて、あわてずに、まず身の安全を確保する」としています。場所ごとの行動は次のとおりです。
- 家の中:頭を守り、丈夫な机の下などに身を寄せる。あわてて外に飛び出さない、無理に火を消そうとしない。
- 人が大勢いる施設:係員の指示に従い、出口に走り出さない。
- 車を運転中:急ブレーキをかけず、ハザードランプを点けてまわりの車に知らせ、ゆるやかに減速する。大きな揺れを感じたら道路の左側に止める。
- 電車・バス:つり革や手すりにしっかりつかまる。
- エレベーター:最寄りの階で止めて、すぐに降りる。
- 街なか:ブロック塀の倒壊、看板や割れたガラスの落下に注意する。
揺れが来なくても、見聞きしてから1分程度は身を守る行動を続けるよう気象庁は呼びかけています。予測には誤差があるため、「鳴ったのに揺れなかった」ことも起こりえます。
揺れがおさまった後、家族の安否確認には171災害用伝言ダイヤルが使えます。携帯電話がつながりにくいときの公衆電話の使い方と災害時の無料化、けが人や火事のときの110・119の正しいかけ方もあわせて確認しておくと安心です。
地震の後にかかってくる電話に注意
大きな地震の後には、それに便乗した電話や訪問の相談が国民生活センターに寄せられます。2025年12月24日に公表された注意喚起(令和7年青森県東方沖を震源とする地震)では、市役所分庁舎を名乗る電話の翌日に、消防団を名乗る者から家族構成や在宅時間を聞かれ、所属を尋ねると電話を切られたという事例が紹介されています。被災地に届けるとして不用品の買い取りを持ちかけ、家に来ようとする電話の事例もありました。
国民生活センターは「公的機関が、各家庭に直接電話をかけて義援金を求めたり、個人情報を聞いたりすることはありません」としています。地震の後に知らない番号から電話が来たら、次の順で対応してください。
- 家族構成・在宅時間・口座などは答えず、いったん電話を切る。
- 名乗られた役所や団体には、相手が言った番号ではなく、自分で調べた公式の番号にかけ直して確かめる(役所をかたる電話の見分け方)。
- 「屋根を無料で点検します」などの訪問の申し出はその場で決めない(点検商法の入口と断り方)。
- 着信した番号を番号検索で調べ、ほかの人の口コミを確認する。
- 迷ったら消費者ホットライン188、警察相談専用電話#9110に相談する(相談先の使い分け)。
まとめ
- 緊急地震速報は、地震発生後にP波をとらえ、強い揺れの前に知らせる速報。震源の近くでは間に合わず、予測には誤差がある。
- スマートフォンへは、電話番号を使わず、基地局から周辺の端末へ一斉に送る「一斉同報」で届く。無料で申込みは不要。
- 電源オフ・機内モード・圏外では届かず、後から再受信もできない。受信設定がオンになっているか一度確認しておく。
- 鳴ったらまず身の安全。地震の後の「役所」「消防団」を名乗る電話には個人情報を答えず、自分で調べた番号で確かめる。
参考
この記事は2026年10月に、以下の公開情報をもとに書きました。
- 気象庁「緊急地震速報とは」
https://www.data.jma.go.jp/svd/eew/data/nc/shikumi/whats-eew.html - 気象庁「緊急地震速報のしくみ」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jishin/eew/shikumi/shikumi.html - 気象庁「緊急地震速報(警報)及び(予報)について」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jishin/eew/shikumi/shousai.html - 気象庁「緊急地震速報の沿革」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jishin/eew/shiryo/enkaku.html - 気象庁「緊急地震速報について(よくある質問)」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq25.html - 気象庁「緊急地震速報を見聞きしたときは」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jishin/eew/koudou/koudou.html - 気象庁「緊急地震速報を活用した訓練について」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jishin/eew/kunren/kunren.html - NTTドコモ 報道発表資料「緊急速報「エリアメール」を提供開始」(2007年11月26日)
https://www.docomo.ne.jp/info/news_release/page/071126_00.html - NTTドコモ「緊急速報「エリアメール」」
https://www.docomo.ne.jp/service/areamail/ - NTTドコモ「緊急速報「エリアメール」ご注意事項」
https://www.docomo.ne.jp/service/areamail/notice/ - NTTドコモ「NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル Vol.17 No.3 次世代移動通信ネットワークにおける緊急情報の同報配信高度化」
https://www.docomo.ne.jp/binary/pdf/corporate/technology/rd/technical_journal/bn/vol17_3/vol17_3_021jp.pdf - au「緊急速報メール」
https://www.au.com/mobile/anti-disaster/kinkyu-sokuho/ - ソフトバンク「緊急速報メール」
https://www.softbank.jp/mobile/service/urgent_news/ - 国民生活センター「地震に便乗した詐欺的トラブルにご注意ください!」(2025年12月24日公表)
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20251224_1.html
※受信できる条件・マナーモード時の動き・設定の手順は、機種・OS・契約回線によって異なります。最新の内容は各携帯電話会社の公式案内でご確認ください。発表基準・観測網は2026年10月時点で気象庁が公開している内容です。