結論: 「通話が暗号化されている」と一口に言っても、相手の端末まで中身を隠すエンドツーエンド暗号化(E2E)、事業者の設備までの区間だけの暗号化、そして法律で守られる通信の秘密は別物です。この記事では、FaceTimeやLINEの通話がどこまで暗号化されているか(各社の公式資料)、昔のコードレス電話が「混線」「傍受」と結びついていた理由と今のデジタル方式、量子暗号・耐量子計算機暗号の現在地を、2026年10月時点の公式情報で整理します。そのうえで、暗号化があっても防げない電話のリスク(相手が詐欺師である場合)と、その見分け方につなげます。
まず整理:「暗号化」には3つの段階がある
通話の安全を考えるときは、次の3つを分けると混乱しません。
| しくみ | 何を守るか | 例 |
|---|---|---|
| エンドツーエンド暗号化(E2E) | 話す人の端末で暗号化し、相手の端末でだけ元に戻す。途中のサーバーでは中身を読めない設計 | FaceTime、LINEの1対1通話 |
| 区間の暗号化(通信レイヤーの暗号化) | 端末と事業者のサーバーの間など、通り道の一部を暗号化する | LINEのグループ通話・LINEミーティング |
| 通信の秘密(法律) | 事業者が扱っている通信の中身や、誰がいつ誰とつながったかを、他人が侵すことを禁じる | 電気通信事業法第4条、電波法第59条 |
技術の暗号化は「盗み聞きを難しくする」もの、法律は「盗み聞きや漏らす行為を罰する」ものです。どちらも、電話をかけてきた相手そのものが本物かどうかは保証しません。この点は後の章で詳しく書きます。
アプリ通話のE2E:FaceTimeとLINEの公式の説明
FaceTime
Appleのセキュリティ解説は、FaceTime通話について「オーディオ/ビデオコンテンツはエンドツーエンドの暗号化によって保護されるため、送信者と受信者以外はだれもアクセスできません」と書いています。グループFaceTimeも、招待された参加者のデバイス間でエンドツーエンドの暗号化で保護されるとしています。
LINE
LINEヤフーの「暗号化レポート 2025」(2026年2月更新)によると、1対1の音声通話とビデオ通話は、同社のLetter Sealingというしくみでエンドツーエンド暗号化されます。Letter Sealingは2021年以降すべての地域で初期設定で有効になっており、手動でオフにはできません。
一方で、グループ音声通話・グループビデオ通話・LINEミーティングは「通信レイヤーのみの暗号化」とされています。同じアプリでも、1対1かグループかで守られ方が違うということです。大事な話を複数人で話すときは、この違いを知っておくと判断材料になります。
電話番号で発着信する通話は
090・080・070の携帯番号や、03などの固定電話、050のIP電話で発着信する普通の通話は、アプリのE2Eとは仕組みが違います。こちらは通話が通信事業者の設備を通って相手につながる形で、中身は次の章の「通信の秘密」で法律上守られています。光回線の固定電話(ひかり電話)と従来の加入電話の違いはひかり電話と加入電話の違いにまとめています。
法律の守り:通信の秘密と電波法
総務省の「通信の秘密(電気通信事業法第4条)FAQ」によると、電気通信事業者が取り扱っている通信の秘密は、事業者に限らず「何人も」侵してはならず、違反は同法第179条の罰則の対象になります。守られる範囲は通話の内容だけではありません。通信の日時・回数、発受信の場所、当事者の氏名・住所・電話番号なども含むと説明されています。
同じFAQは、自宅の中の親機と子機の間の通信は事業者の管理下にないので、電気通信事業法の「取扱中の通信」には当たらないとしています。ただし、そうした通信でも電波法第59条・第109条などで保護される場合がある、とも書いています。電波法第59条は、特定の相手に向けた無線通信を傍受して、その存在や内容を漏らしたり、窃用(自分のために使うこと)したりすることを禁じています。
コードレス電話と「混線・傍受」:アナログからデジタルへ
家庭の固定電話で、子機を別の部屋に持ち歩けるコードレス電話は、親機と子機の間を電波でつないでいます。電話線の中を通る通話と違い、電波は家の外まで届くことがあります。
無線で音声を送る機器の一般的な性質として、ソニーはワイヤレスマイクの技術解説で、アナログ方式は音声信号をFM変調でそのまま送るため、専用の機材と知識があれば傍受できてしまうこと、デジタル方式では暗号化によって盗聴を防げることを説明しています。電波で音声を送る点はコードレス電話も同じで、アナログ方式の機器には同じ弱点があります。
いまの家庭用コードレス電話で使われている方式の一つが、1.9GHz帯のデジタルコードレス電話です。総務省の資料によると、この帯域は免許のいらない無線局として1993年(平成5年)に自営PHSが制度化され、2010年(平成22年)にDECT方式などが加わりました。2023年9月の総務省資料では、自営PHS・DECT・TD-LTEの3方式が周波数を共用しています。
家の電話でできること
- 古いアナログ式のコードレス電話をまだ使っているなら、買い替えの目安にする(電話機の取扱説明書や本体表示で方式を確かめる)。
- 暗証番号や口座番号など、もともと電話で話すべきでない情報は、方式にかかわらず話さない。
- 通話の記録が必要なときは、相手に断ったうえで録音する。方法は通話録音の注意点とやり方にまとめています。
量子暗号と「耐量子計算機暗号」はいまどこまで来たか
量子鍵配送(QKD)
情報通信研究機構(NICT)は2010年、東京を中心とした光回線で量子暗号通信のテストベッド「東京QKDネットワーク」を構築しました。2010年10月14日の発表では、大手町を基点に小金井まで約45km、白山まで約12km、本郷まで約13kmの回線で、盗聴できない多地点テレビ会議システムの試験運用を行うとしています。
NICTの説明では、量子鍵配送(QKD)は、暗号に使う「鍵」のデータが盗聴されたことを確実に検知できる技術です。2026年6月更新のNICTの資料では、東京QKDネットワークは基本機能の体験、アプリケーション開発、使い道の検討・実証などに利用できる段階として紹介されています。つまり、家庭のスマホや固定電話の通話が量子暗号で守られている段階ではありません。
耐量子計算機暗号(PQC)
もう一つの流れが、将来の量子コンピュータでも破られにくい新しい暗号(耐量子計算機暗号)です。米国立標準技術研究所(NIST)は2024年8月13日、その最初の標準として3つのFIPSを承認したと発表しました。
| 規格 | 役割 |
|---|---|
| FIPS 203(格子暗号による鍵カプセル化) | 通信する2者の間で、公開の通信路を使って共通の秘密の鍵を決める |
| FIPS 204(格子暗号による署名) | デジタル署名(データの改ざんの検知と、誰が署名したかの確認) |
| FIPS 205(ハッシュ関数による署名) | デジタル署名(FIPS 204とは別の方式) |
これらは、アプリや通信の暗号の「部品」を将来に備えて入れ替えていくための規格です。利用者が今日なにか設定を変える必要があるものではなく、端末やアプリの更新を止めないことが、そうした入れ替えを受け取る一番の近道です。
暗号化しても防げないこと:相手が詐欺師の場合
E2Eも量子暗号も、守っているのは「途中で第三者が盗み聞きすること」です。電話の相手そのものが詐欺師なら、暗号化された通話でも、話した情報はそのまま相手に渡ります。実際の被害の多くは盗聴ではなく、こちらから情報を話してしまう形で起きます。
- 表示された番号は本人の証明にならない。発信者番号を偽る手口があります。詳しくは番号詐称:表示された番号は本物の証明になりません。
- 声も本人の証明にならない。AIで家族の声をまねる手口についてはAIで家族の声をまねる詐欺電話で、声に頼らない確かめ方を説明しています。
- 認証コードは誰にも伝えない。「本人確認のためにSMSのコードを教えて」は乗っ取りの入口です。二段階認証のSMSコードが盗まれる4つの手口も参考にしてください。
知らない番号から電話が来たら
- 暗証番号・口座番号・認証コード・カード番号は、電話では答えない。
- 相手が名乗った会社や役所には、いったん切って、自分で調べた公式の番号にかけ直す。
- 番号の形(携帯・固定・050・海外)は用語集や当サイトの番号検索で確かめ、口コミを見てから判断する。
- お金を払ってしまった・情報を話してしまったときは、警察相談専用電話#9110や消費者ホットライン188に相談する。
参考
この記事は2026年10月に、以下の公開情報をもとに書きました。
- Apple「FaceTimeのセキュリティ」(Appleプラットフォームセキュリティ)
https://support.apple.com/ja-jp/guide/security/seca331c55cd/web - LINEヤフー「暗号化レポート 2025」(2026年2月更新)
https://www.lycorp.co.jp/ja/privacy-security/security/transparency/encryption-report/2025/ - 総務省「通信の秘密(電気通信事業法第4条)FAQ」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/th_faq.html - e-Gov法令検索「電波法」第59条
https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000131 - 総務省 報道資料「デジタルコードレス電話の無線局の高度化に係る技術的条件」(2017年3月31日)
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000291.html - 総務省 報道資料「電波法施行規則及び無線設備規則の一部を改正する省令案等に関する意見募集の結果及び電波監理審議会からの答申」(2023年9月22日)
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000618.html - ソニー「デジタルワイヤレスマイクロホン 特長」
https://www.sony.jp/pro-audio/spl/digital-w/feature02.html - NIST「Announcing Approval of Three Federal Information Processing Standards (FIPS) for Post-Quantum Cryptography」(2024年8月13日)
https://www.nist.gov/news-events/news/2024/08/announcing-approval-three-federal-information-processing-standards-fips - NICT シーズ集「絶対に情報が漏洩しない量子暗号通信を検証するネットワーク基盤」(2026年6月20日更新)
https://www2.nict.go.jp/oihq/seeds/detail/0048.html - NICT プレスリリース(2010年10月14日)
https://www.nict.go.jp/press/2010/10/14-1.html
※アプリの暗号化の範囲は、各社が2026年10月時点で公表している内容です。アプリの更新で変わることがあります。コードレス電話の傍受しやすさは機種や方式によって異なり、この記事は特定の製品の安全性を評価するものではありません。