詐欺・迷惑電話

AIで家族の声をまねる詐欺電話の手口と、声に頼らない確かめ方

公開日 | 更新日

「お母さん、俺だけど……事故を起こした」。電話口の声が本当に子どもや孫の声そっくりだったら、疑うのは難しいものです。警察庁は、AIなどを使えば誰でも他人になりすまし、本人の音声や動画を作ることができてしまうと注意を呼びかけています。この記事では、AIで合成した声(ディープフェイク音声)が家族をかたる詐欺にどう使われ得るか、耳や検出技術で見分けるのがなぜ難しいのか、そして声に頼らずに本人を確かめる方法と、お金を払ってしまったときの相談先を、警察庁・総務省・消費者庁・各地の警察の公開情報をもとにまとめます。

AIで「本人の声」が作れてしまう

総務省の情報通信白書(令和6年版)は、「ディープフェイク」を、ディープラーニング(深層学習)とフェイク(偽物)を組み合わせた造語で、AI技術を用いて合成された音声、画像あるいは動画のことだと説明しています。白書によると、生成AIの進歩で非常に高品質な音声や動画を作れるようになり、生成AIが犯罪に利用されるケースも増えています。海外では、米大統領選の予備選の前に偽の音声でバイデン米大統領になりすました電話がかけられた事例も紹介されています。

家族をかたる電話にも同じ危険があります。警察庁は、SNSで出会った相手をかたる詐欺について「SNS上に公開された写真や翻訳アプリ、AIなどを利用すれば、誰でも簡単に他人になりすますことができ、本人の音声、動画を作ることができてしまいます」とし、電話やビデオ電話で話していても本人ではない者がなりすましている可能性があると警告しています。「声を聞けば本人だとわかる」という前提は、もう安全ではありません。

家族をかたる詐欺の筋書き

警察庁によると、オレオレ詐欺は親族、警察官、弁護士などを装い、親族が起こした事件・事故の示談金などを名目にお金をだまし取る手口です。犯人は最初に「風邪をひいて声が変わった」「携帯が壊れて番号が変わった」などと言って信用させ、そのあと「お金が今すぐ必要」と振り込みを求めてきます。

これまでは「声が違う」ことを風邪などの言い訳でごまかしていましたが、声そのものが本人に似ていれば、その言い訳さえ要らなくなります。「事故を起こした」と切迫した話でたたみかけ、警察官や弁護士を装う人物も使って話に現実味を持たせる——筋書きは同じでも、声が本物らしいほど、確かめる前にお金を用意してしまいやすくなります。ほかの手口は詐欺・迷惑電話の手口一覧で確認できます。

耳でも検出技術でも見分けきれない

「偽の声を自動で見破る技術があるのでは」と考える人もいるでしょう。総務省の白書によると、ディープフェイクへの対策は各方面で進められています。

  • 米国ではAI開発企業など15社が、真贋を示す目印をデータに忍ばせる「電子透かし」など、AIによる生成を見分ける技術の開発を進めています。
  • 国内では国立情報学研究所が2021年9月に、AIで作られたフェイクの顔画像を自動で判定するツール「SYNTHETIQ VISION」を開発しました。

一方で白書は、対策は「いたちごっこの様相」だとし、判定ツールの精度にも課題があると書いています。例として、OpenAIが自社開発した判定ツールは、AIが書いた文章を正しくAI製と判定できた割合が26%、人間の文章を誤ってAI製と判定した割合が9%で、提供を中止したことを挙げています。そのうえで、テキスト・画像・音声などの生成AIと判定ツールが競い合って改良が進むため、フェイク情報を正確に判別するのは難しいという見方を示しています。

つまり、電話の声が本物か偽物かを、聞き手の耳や道具で判定することは当てにできません。守りの軸は「声で判断しない」ことです。

本人確認は「声」ではなく「かけ直し」で

警察庁は、オレオレ詐欺の対策として「家族にかけ直して本物かを確認」「最寄りの警察署にかけ直して本物かを確認」を挙げています。お金の話が出たら、どれほど本人の声に聞こえても一度電話を切り、次のように確かめてください。

  1. 登録してある番号にかけ直す。埼玉県警察は「電話番号が変わった」「携帯電話を無くした」と言われても、登録している家族の電話番号にかけて事実確認をするよう呼びかけています。神奈川県も「前の番号へ必ず確認する」としています。相手が伝えてきた「新しい番号」は使いません。
  2. つながらなければ、ほかの家族に相談する。埼玉県警察は、本人かどうか確信が持てない場合は一度電話を切って他の家族に相談するよう勧めています。
  3. 警察を名乗る人物が出てきたら、自分で調べた警察署の番号にかけ直す。相手の言う番号にはかけません。

「電話を切らないで」「この番号にかけて」と食い下がられるほど、疑うべき状況です。知らない番号への対応の基本は知らない番号からの電話への対応もあわせて参考にしてください。

家族で決めておく対策

電話がかかってくる前に、家族で決めておけることがあります。

  • 合言葉を決めておく。埼玉県警察・神奈川県はともに、家族どうしでお互いを確認するための合言葉をあらかじめ決めておくよう呼びかけています。お金が絡む電話では必ず合言葉を確認する、と約束しておきます。声は合成できても、家族だけが知る合言葉までは分かりません。
  • 連絡先を確認しておく。神奈川県は、家族や親族の間で連絡先を確認しておくよう勧めています。かけ直し先の番号を、電話帳に登録し直しておきましょう。
  • 在宅中も留守番電話にしておく。警視庁渋谷警察署や埼玉県警察は、在宅中も常に留守番電話に設定し、相手や用件を確認してから折り返すよう呼びかけています。警察庁も、何よりも「犯人と話をしない」ことが大切だとしています。
  • 録音機能や着信のサービスを使う。自動通話録音機は、かけてきた相手に「この通話内容は、防犯のため録音しています。」と流し、実際に録音できる機器です(渋谷警察署)。電話会社の番号表示サービスや非通知拒否サービスも警察庁が案内しています。
  • SNSに上げる声や動画の公開範囲を見直す。警察庁が指摘するとおり、SNS上に公開された写真などとAIを組み合わせれば、本人の音声や動画を作れてしまいます。家族の声や顔が分かる動画を誰でも見られる状態にしていないか、確認しておくと安心です。

高齢の家族がいる場合は、「お金の話が出たら一度切って、登録してある番号にかけ直す」「合言葉を聞く」と紙に書いて電話のそばに貼っておくと、いざというときに思い出せます。日頃の備えは高齢の家族を電話詐欺から守るでも詳しく触れています。

もし送金・約束してしまったら

「もう振り込んでしまった」「お金を渡す約束をしてしまった」ときも、あきらめずにすぐ動いてください。

  1. まず本人に確認する。登録してある番号から、話に出てきた子や孫本人に直接連絡し、事実かどうかを確かめます。
  2. 今まさに被害に遭っているなら「110番」。警視庁は、たった今被害に遭った、事件を目撃したという場合は緊急ダイヤル「110番」にかけるよう案内しています。お金を受け取りに来ると言われているなど、差し迫った状況ならためらわず通報してください。
  3. 緊急でない相談は「#9110」。警察庁は、緊急でない相談は最寄りの警察署か#9110を利用するよう案内しています。警視庁によると、#9110は通常の通話料金がかかります。
  4. 消費者ホットライン「188」。188にかけると、地方公共団体の消費生活センターや相談窓口を案内してもらえます。相談は無料で、つながった時点から通話料がかかります。

相談の前に、かかってきた日時・番号・言われた内容・振込先などをメモにまとめておくと話が早く進みます。被害メモの作り方を使えば、必要な項目を漏らさず整理できます。かかってきた番号に心当たりがなければ、番号検索で同じ番号についての口コミがないか確かめてみてください。

声は、もう本人である証拠になりません。お金の話が出たら、どれほど本人に聞こえても一度切って、登録してある番号にかけ直す。今日のうちに家族で合言葉を決め、かけ直し先の番号とSNSの公開範囲を確認しておきましょう。迷ったら#9110か188へ相談してください。

参考

この記事は2026年9月に、以下の公開情報をもとに書きました。

※判定ツールの精度(26%・9%)は、総務省の情報通信白書(令和6年版)が紹介した、OpenAIによる文章の判定ツールについての数字で、音声の判定ツールの数字ではありません。合言葉・留守番電話などの対策は、埼玉県警察・神奈川県・警視庁渋谷警察署の各ページの呼びかけによります。188・#9110の通話料は2026年9月時点の各ページの記載によります。

この記事に出てくる番号帯

気になる番号は 番号検索 から調べられます。

← コラム一覧へ戻る