数十秒の音声サンプルさえあれば、本人そっくりの声を合成できる「AIボイスクローン」が実用段階に入り、オレオレ詐欺が「本物の声」で行われ得る時代になりました。子や孫がSNSに上げた動画、留守番電話に残した伝言、動画配信での会話——ほんの少しの音声が、詐欺グループにとっては声を再現する素材になります。「声を聞けば本人だとわかる」という長年の常識が、いま通用しなくなりつつあります。
合成された声を使う詐欺の手口
典型的なパターンは、これまでのオレオレ詐欺の筋書きを「本物に近い声」で補強するものです。合成した子や孫の声で電話をかけ、「事故を起こして相手に賠償金が要る」「会社の金を使い込んでしまった、今日中に返さないとクビになる」「今すぐお金が必要なんだ」と、切迫した状況を一気にまくし立てます。
ここで狙われるのは、聞き手の判断力です。泣き声や動揺した声色、早口でたたみかける口調によって、冷静に確認する余裕を奪います。「声が本人そのものだった」「泣いていたから放っておけなかった」という感覚が、通常なら働くはずの疑いにブレーキをかけてしまうのです。さらに「上司に代わる」「警察官に代わる」といった別の登場人物を加え、話に現実味を持たせる手口も報告されています。どんな手口があるかは詐欺パターン集で具体例を確認しておくと、いざというとき気づきやすくなります。
「声だけを信じない」という新しい前提
合成音声への最も確実な対抗策は、シンプルです。本人確認を「声」ではなく「かけ直し」で行う——これを家庭の新しい前提にすることです。
どれだけ本人そっくりに聞こえても、かかってきた電話の声そのもので本人だと判断してはいけません。いったん電話を切り、あらかじめ登録してある本人の番号に自分からかけ直す。相手が伝えてきた「新しい番号」ではなく、必ず自分が知っている連絡先を使います。相手が「この番号にかけて」「電話を切らないで」と食い下がるほど、疑うべき状況だと考えてください。本物の家族なら、かけ直して確認することを嫌がりません。知らない番号への対応の基本は知らない番号にどう対応するかもあわせて役立ちます。
家族で決めておく具体的な対策
電話がかかってくる前に、家族で話し合って決めておけることがあります。
- 合言葉を決めておく:家族だけが知る合言葉を一つ決め、お金が絡む電話では必ず確認する。合成音声には答えられません。
- 必ず本人の番号にかけ直す:お金の話が出たら、その場で判断せず一度切って本人へかけ直すことを家族の約束にする。
- SNSの音声・動画の公開範囲を見直す:子や孫が投稿する動画や音声は、声の素材になり得ます。公開範囲を友人限定にするなど、不特定多数に声が届かない設定にしておく。
- 在宅時も留守番電話にしておく:ワンクッション置くことで、相手に一方的に迫られる状況を避けられます。名乗らない相手や不審な用件は折り返さない判断がしやすくなります。
特に高齢の家族がいる場合は、こうした約束を紙に書いて電話のそばに貼っておくと安心です。日頃の備えは高齢の家族を電話詐欺から守るでも詳しく触れています。
もし送金・約束してしまったら
「もう振り込んでしまった」「お金を渡す約束をしてしまった」——そのときも、あきらめずにすぐ動いてください。順番は次のとおりです。
- まず本人へ確認する:登録済みの番号から、話に出てきた子・孫本人に直接連絡し、事実かどうかを確かめる。
- 消費者ホットライン「188」に相談する:局番なしの188にかけると、最寄りの消費生活センターにつながり、返金交渉や今後の対応を相談できます。
- 警察相談専用電話「#9110」に連絡する:緊急ではないが警察に相談したいときは#9110。詐欺被害の届け出や助言を受けられます。
- 被害が進行中なら「110」:今まさに現金を受け取りに来る、犯人と接触するといった切迫した状況では、ためらわず110に通報してください。
相談の前に、かかってきた日時・番号・言われた内容・振込先などをメモにまとめておくと、話が早く進みます。被害整理メモを使えば必要な項目を漏らさず整理できます。かかってきた番号に心当たりがなければ、番号検索で他に同じ番号の報告がないか確かめてみてください。
声はもう、本人である証拠にはなりません。だからこそ「お金の話が出たら、一度切って本人にかけ直す」——この一つの習慣が、合成された声からあなたと家族を守ります。今日、家族の合言葉を決め、SNSの公開範囲を確認するところから始めてください。