2026年5月に公布された携帯電話不正利用防止法の改正で、SMS機能付きデータ通信専用SIMが本人確認の対象になります。「これで迷惑電話は減るのか」——率直な疑問だと思います。
結論から言うと、公表資料から言えるのは「一部の入口が確実に狭くなる」ということまでです。減るかどうかを断言できる材料は、まだ公開されていません。何が対象で、何が対象外なのかを整理しておきます。
いつ、何が始まるのか
改正法(令和8年法律第25号)は2026年5月22日に成立、5月29日に公布され、施行は公布から1年以内です。制度の細部は総務省令に委ねられており、総務省は2026年8月3日に「携帯電話不正利用防止法の改正に基づく制度整備の方向性について」を公表しました。「ICTサービスの利用環境の整備に関する研究会」の作業部会が2026年7月22日に取りまとめ、同月末に研究会へ報告した内容です。
変わる点の要旨は次のとおりです。
- SMS機能付きデータ通信専用SIMが本人確認義務の対象に加わる(IoT機器向けは除外することが想定されている)
- データ通信サービスのみを提供するMVNOも対象事業者に含まれる
- 個人の多回線契約に上限。音声SIM・SMS機能付きデータSIMそれぞれ5回線(改正後法第11条第6号)
- すでにデータSIMを使っている人にも本人確認を行う義務(改正法附則第2条)。応じない場合は役務の提供を拒める(同附則第6条)
狭くなるのはどこか
効き目が期待できるのは、「名前を出さずに大量の回線を用意する」やり方です。
これまで、通話ができる回線は本人確認が必要でしたが、データ通信専用SIMはその外側にありました。SMSが使えるデータSIMがあれば、SMS認証を通す用途には十分です。そこが対象に入り、さらに1人5回線という上限がかかります。1人で数十回線を抱える形は、法律上できなくなります。
加えて、経過措置によりすでに使われている既存のデータSIMにも本人確認が及びます。「施行前に契約したものは対象外」という逃げ道が塞がれている点は、実効性のうえで大きな違いです。
対象になっていないもの
いっぽうで、この法律が扱っているのは国内の携帯通信の契約です。以下は、この改正が直接扱う範囲には入っていません。
- 海外から発信される国際電話。日本の事業者の契約ではないため、この法律の本人確認の枠外です。+1・+44・+86からの着信のような形は、国内の契約規制では止まりません
- 番号を偽って表示させる手口。表示される番号と実際の発信元が一致しない場合、契約者を辿る話とは別の問題になります(番号詐称:表示された番号は本物の証明になりません)
- 電話を使わない手口。SNSやメッセージアプリで完結する勧誘は、そもそも電話番号を必要としません
2026年上半期の特殊詐欺で被害額が最も大きかったのはSNS型投資詐欺(797.9億円)で、増加額618.8億円のうち444.9億円をこの手口が占めています。金額がいちばん動いている場所は、電話番号の契約規制の外側にあるということです(2026年上半期の特殊詐欺の統計)。
捜査の側にも手が加わっている
見落とされがちですが、改正では警察署長がメッセージアプリ等の運営事業者に対して契約情報の報告を求められる規定(改正後法第8条第2項)も追加されました。番号の入口を締めるだけでなく、電話の外側で使われている連絡手段にも手が届くようにする建て付けです。
総務省は、この改正が「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」(令和7年4月22日 犯罪対策閣僚会議決定)などを踏まえ、不正な利用の多様化・巧妙化に対応するためのものだと説明しています。「多様化・巧妙化」という言葉自体が、1つの規制で片がつく話ではないことを示しています。
利用者として、いま準備できること
制度の効果を待つ話とは別に、施行に向けて自分の身に起きることが1つあります。データSIMを契約している人には、本人確認の案内が来る可能性があるということです。応じなければサービスの提供を拒まれることがあります。
ここで注意が必要なのは、この制度変更そのものが詐欺の口実に使われうることです。「法律が変わったので本人確認が必要」「今日中に手続きしないと回線が止まる」という電話は、「2時間後に電話が止まる」型の架空請求とまったく同じ形をしています。
案内が来ても、その電話やSMSのリンクから手続きしないでください。契約している通信会社の公式アプリを自分で開くか、自分で調べた公式の番号にかけ直す。これは制度が変わっても変わらない原則です。
心当たりのない番号は番号検索で調べられます。不安があれば消費者ホットライン188へ。
参考
この記事は2026年9月5日に、以下の公開情報をもとに書きました。年月日・条文番号・回線数・統計はすべて出典のとおりです。
- 総務省「『携帯電話不正利用防止法の改正に基づく制度整備の方向性について』の公表」(令和8年8月3日)
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban18_01000289.html - 牛島総合法律事務所「携帯電話不正利用防止法 令和8年改正法の概要」
https://www.ushijima-law.gr.jp/client-alert_seminar/client-alert/20260805identification/ - 警察庁「令和8年上半期における特殊詐欺の認知・検挙状況等について」(2026年7月31日公表)
https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/sos47/new-topics/260731/01.html
※本記事は公開資料をもとにした一般的な解説であり、法的助言ではありません。制度の細部は今後の総務省令等で定められます。「対象になっていないもの」の整理は、公表されている法律の適用範囲にもとづくでんわチェックの説明であり、迷惑電話が減るかどうかについての公的な見通しが示されているものではありません。