「スマホだけで日給3万円」「誰でも簡単に稼げます」と電話やSMSで持ちかけられる副業話の多くは、稼がせることではなく、情報商材の購入・初期費用の支払い・個人情報の収集そのものが本当の目的です。仕事を紹介しているように見えて、実際には申し込んだ側がお金を払う構図になっているのが特徴で、指示どおりに進めても報酬はほとんど手に入りません。この記事では、国民生活センターが公表している相談件数と実際の相談事例、副業紹介電話の典型的な手口と詐欺を見抜くサイン、クーリング・オフなど法律上の手当て、そして「もう払ってしまった」ときの相談先までを順にまとめます。
数字で見る副業トラブル
国民生活センターは2024年9月4日、「"いいね"を押すだけ」「スタンプを送るだけ」「スクリーンショットを撮るだけ」といった簡単な作業で稼げるとうたう副業のトラブルについて注意を呼びかけました。応募したところ、高額報酬を得るにはまず振り込みをするよう指示された、という相談です。全国の消費生活センター等に寄せられた相談の推移は次のとおりです。
| 年度 | 相談件数 | SNSがきっかけの割合 | 平均契約購入金額 |
|---|---|---|---|
| 2020年度 | 1,341件 | 23% | 279,519円 |
| 2021年度 | 2,398件 | 36.2% | 301,344円 |
| 2022年度 | 2,793件 | 43.9% | 533,233円 |
| 2023年度 | 3,694件 | 63.4% | 763,117円 |
| 2024年度(7月31日まで) | 950件 | 70.1% | 1,059,658円 |
相談件数は4年で約2.8倍になり、1件あたりの平均契約購入金額は100万円を超えるところまで上がっています。きっかけがSNSだった相談は7割に達していますが、下の事例のように、登録後に電話で細かく指示されるケースもあり、知らない番号からの電話がこの手口の途中で出てくることがあります。
「稼げるノウハウ」を売る情報商材についても、国民生活センターには2023年度に6,256件、2024年度に4,163件、2025年度に2,623件の相談が寄せられています(2026年7月31日更新のページ。件数は2026年5月31日現在)。件数は減っているものの、「スマホで簡単に稼げる」という広告を見てメッセージアプリに登録し、情報商材を契約してしまったといった事例が今も紹介されています。
典型的な手口の流れ
副業を装った勧誘は、多くが同じ順番で進みます。まず知らない番号からの電話やSMS、あるいはSNSの広告で「在宅ワークの案内です」「スキマ時間で稼げる仕事があります」と接触してきます。ここで反応すると、次はほぼ必ず「詳しくはLINEで」とメッセージアプリへの登録を促されます。やり取りの場が相手の用意したグループやアカウントに移ると、周りが見えにくくなり、相手の説明だけを頼りに判断することになりがちです。
LINEに登録すると、担当者やサポート役を名乗る相手から「あなたは審査に通りました」「今なら特別に案内できます」といったやり取りが始まります。そして本番は、実際に作業を始める前の段階で訪れます。「マニュアル代」「サポート費」「システム利用料」「登録料」といった名目で、先に支払うよう求められるのです。ここで払ってしまうと、その後は稼げないまま追加費用を請求され続けるか、ある日を境に相手と連絡が取れなくなり、支払ったお金だけが戻らないという結末になります。
国民生活センターが紹介している最近の事例
2026年5月19日に国民生活センターが公表した注意喚起では、次のような相談が紹介されています。
- 最初は少額の報酬が振り込まれる。「動画を見て“いいね”をしたらお金をもらえる」という話に応じ、3日間指示どおりに作業すると約2,500円が振り込まれた。その後「作業に失敗したのでグループの連帯責任になる」として約50万円の入金を求められ、その後も次々と請求された(20代女性)。
- 電話で借金と送金を指示される。スキマ時間にできる副業を探して見つけたサイトからメッセージアプリに登録し、相手と電話で話すと、遠隔操作アプリのインストールと消費者金融4社への申し込みを指示され、借りたお金を暗号資産に換えて送金するよう言われた。「後で返金する」と説明されたが契約書はなかった(30代女性)。
- スマホを遠隔で操作される。「動画を見るだけ」の副業に登録して契約したあと、「手続きに必要」と言われて相手にスマートフォンを遠隔で操作され、消費者金融2社から30万円ずつ借り入れられてどこかに送金された。数か月後に消費者金融から督促が来て気づいた(20代男性)。
「最初に少しだけ報酬が入る」のは信用させるための段取りで、そのあとの支払いのほうがはるかに大きくなります。電話で借入や送金の手順を一つずつ指示してくるのも、この手口の特徴です。
身に覚えのない番号から副業や在宅ワークの誘いがあったときの基本的な向き合い方は、知らない番号からの電話への対応方法でも整理しています。まずは折り返さず、相手の名乗りと目的を確認する姿勢が入り口になります。
詐欺を見抜くサイン
金額や業種はさまざまでも、副業詐欺には共通するサインがあります。当てはまる項目が多いほど、危険度は高いと考えてください。
- 作業を始める前にお金を払わせる。本来、仕事は働いた側が報酬を受け取るものです。報酬を得る前にこちらから支払う構造は、副業詐欺の最も分かりやすいサインです。
- 仕事内容が具体的に説明されない。「スマホで簡単な作業」「コピペするだけ」「いいねを押すだけ」など、何をして誰から報酬が出るのかが最後まで曖昧なままです。
- 「今だけ」「先着◯名」と急かす。冷静に調べる時間を与えず、その場で決めさせようとします。急かされたら、いったん立ち止まる合図だと考えてください。
- 借金してでも始めろと勧める。「初期費用はすぐ回収できる」「消費者金融で用意すれば大丈夫」と借入まで促すのは、相手が支払いだけを目的にしている典型例です。上の事例のように、申し込み先まで指示してくることもあります。
- 「連帯責任」「失敗した」を理由に入金を求める。働いた側がお金を払う理由にはなりません。
- 個人情報や遠隔操作アプリを求める。国民生活センターも、個人情報や遠隔操作アプリを安易に提供しないよう呼びかけています。
投資や資産運用を絡めた似た勧誘も後を絶ちません。もうけ話で先にお金を出させる手口は、投資勧誘の電話の断り方と共通点が多く、あわせて知っておくと見分けやすくなります。手口全体を俯瞰したいときはよくある詐欺の手口一覧も参考にしてください。
断り方と対処
怪しいと感じたら、やり取りを続けないことが最大の防御です。相手はこちらが会話を続けるほど説得の材料を増やしてきます。次の順番で対応するのが現実的です。
- きっぱり断る。「興味がありません」「必要ありません」と一言だけ伝えれば十分です。理由を説明したり交渉したりする必要はありません。あいまいな返事は「まだ脈がある」と受け取られます。
- お金を払わない・借りない。どんな名目でも、作業前の支払いや、相手に言われての借入・暗号資産での送金には応じないと決めておきます。
- 個人情報を教えない・アプリを入れない。口座番号や身分証の画像、遠隔操作アプリのインストールを求められても応じません。
- LINEをブロックし、着信を拒否する。断ったあとも連絡が続くことがあります。ブロックと着信拒否で接点を断ちましょう。
- 番号を調べる。かかってきた番号を電話番号検索で確認すると、同じ番号による副業勧誘の報告が見つかることがあります。判断の裏づけになります。
やり取りの日時、相手の名乗り、送られてきたメッセージのスクリーンショットは、あとから相談するときに役立ちます。記録の残し方は被害メモの作り方にまとめてあるので、断る前後に控えておくと安心です。
払ってしまったら
すでに初期費用を支払ってしまった場合でも、あきらめて泣き寝入りする必要はありません。契約の内容や勧誘の方法によっては、クーリング・オフや契約の取り消しができる可能性があります。自分だけで判断せず、まずは公的な相談窓口に状況を伝えてください。
「仕事のために商品を買わせる」取引には法律のルールがある
「仕事を提供するので収入が得られる」と誘い、商品などを売ってお金を負担させる取引は、特定商取引法で業務提供誘引販売取引と呼ばれ、規制の対象になっています。消費者庁の特定商取引法ガイドによると、主なルールは次のとおりです。
- 事業者は、契約前に概要を書いた書面(概要書面)を、契約後に契約内容を明らかにした書面(契約書面)を渡さなければなりません。
- 書面を受け取った日から数えて20日以内なら、クーリング・オフ(契約の解除)ができます。事実と違うことを言われたり威迫されたりしてクーリング・オフをしなかった場合は、20日を過ぎても解除できます。
- 事実と異なる説明を受けて誤認して契約した場合などは、申し込みや契約の意思表示を取り消せます。
実際の取引がこの形に当たるかどうか、どの手続きがとれるかは契約の中身によって変わります。書面をもらっていない、説明と違う、といった点も含めて、次の窓口で確かめてください。
相談先
身近な相談先は、消費者ホットライン188(いやや)です。局番なしの3桁で、住んでいる地域の消費生活センターなどの相談窓口を案内してもらえます。相談は無料ですが、窓口につながった時点から通話料はかかります。支払いに使ったカードや振込の明細、相手とのやり取りの記録を手元に用意してから電話すると、話がスムーズです。
「だまし取られたのではないか」「相手から脅すような連絡が来ている」など、警察に関わる不安があるときは、警察相談専用電話#9110を利用できます。事件や事故の緊急通報は110番ですが、緊急でない相談は#9110が窓口になります。どちらの番号も、被害に遭ったこと自体を責められる場ではありません。副業のつもりが支払いだけさせられた、という事実を早めに伝えることが、被害を最小限にする一番の近道です。
副業を始めたいという気持ちにつけ込むのが、この手の勧誘の常套手段です。先にお金を払わせる話は疑う、初期費用は払わず借金もしない、知らない番号は番号検索で確かめる、迷ったら188と#9110に相談する。これを覚えておけば、あやしい電話やSMSが来ても落ち着いて対応できます。
参考
この記事は2026年9月に、以下の公開情報をもとに書きました。
- 国民生活センター「スキマ時間に気軽に稼げる等とうたう副業トラブル!-簡単なタスクを行う副業でお金を払う??詐欺に騙されないで-」(2024年9月4日公表)
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20240904_1.html - 国民生活センター「簡単なタスクで稼げるとうたう副業トラブルに注意!」(2026年5月19日公表)
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20260519_1.html - 国民生活センター「情報商材」(2026年7月31日更新)
https://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/infoproducts.html - 消費者庁 特定商取引法ガイド「業務提供誘引販売取引」
https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/businessopportunity/ - 消費者庁「消費者ホットライン」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/local_cooperation/local_consumer_administration/hotline/ - 警察庁「ご意見、各種相談・情報提供等」
https://www.npa.go.jp/goiken_index.html
※相談件数・割合・平均契約購入金額は、国民生活センターが2024年9月4日に公表した「簡単なタスクを行う副業」に関する数字で、2024年度は同年7月31日までの登録分です。情報商材の件数は同センターのページ(2026年7月31日更新)によるもので、2026年5月31日現在の数字です。いずれも消費生活センター等に寄せられた相談の件数で、被害の総数ではありません。クーリング・オフや取り消しができるかどうかは個別の契約内容によって異なります。